2013/11/08

山本太郎さんへの「手紙」──私たちの見解


2013年11月6日

反天皇制運動連絡会
 
10月31日、秋の園遊会で、山本太郎参議院議員が天皇に「手紙」を渡したことが、多くの議論を呼んでいます。田中正造の「直訴」になぞらえて評価 する声がある一方、政府や与野党を問わず、「政治利用だ」「非常識」「議員辞職もの」「なんらかの処分を」との声が相次ぎ、参院議院運営委が山本議員の 「出処進退」をただした上で、近く「一定の処分」を下すとする騒ぎになっています。

山本議員も述べたように、「主権回復の日式典」や「オリンピック招致」など、さんざん天皇制の「政治利用」を繰り返してきた、政府や議員連中が、山本議員 へのバッシングという目的のために「政治利用」として批判を繰り返すのはきわめて醜悪であり、いわば「政治利用」の利用です。


記者会見での説明によれば、「手紙」の内容は、「子供たちの被曝、この先進んでいくと本当に健康被害がたくさん出てしまう」「食品の安全基準という部分で もすごく危険な部分がある」「原発の収束作業員(が)……本当に劣悪な環境の中で、しかも、搾取されながら労働の対価というものを手にすることなく、命を はりながら、命を削りながらやっているにもかかわらず、健康管理とか放射線管理がずさんなままにされている実情」などを訴えたものであったとのことです。


私たちは、これらの主張内容はまったくの正論であり、3・11以降の反(脱)原発運動に精力的に関わってきた山本議員が繰り返し訴えてきたことであること を知っています。しかし、そのような内容の文章であれ、それを天皇に渡すことでなんらかの政治的な効果を得ることを期待してなされた行為は、やはり誤りで あると、明確に言わなければなりません。


そもそも、「園遊会」とは何でしょうか。日本国憲法では、天皇の政治への関わりは、第4条において「天皇は、この憲法に定める国事に関する行為のみ を行ひ、国政に関する権能を有しない」とされ、国事行為の内容は第7条に具体的に列挙されています。そしてそれらの行為も儀礼的・形式的な行為にすぎず、 そこに記載されていない行為は、天皇としておこなうことはできないと解すべきものです。現実には、国会開会式における「おことば」や「地方巡幸」、「皇室 外交」など、天皇の「公的行為」の名の下に、こうした限定を無視した政治的行為が積み重ねられてきていますが、それらは、天皇の政治的権能を拡大する違憲 の行為です。

天皇主催による「園遊会」は、天皇が単に私的に友人を招いたりするようなものではありません。それは、各界で活躍する「時の人」を集め、それらの人々に天 皇と皇族が「ねぎらい」の声かけをして回る儀式であり、それらの人を束ねる天皇という像を写しだすことで、天皇の権威を強化しそれを広く受け入れさせる、 きわめて政治的な場になっています。それは何ら法的な裏づけもない儀式であり、いわば、制度としての天皇を、個人としての天皇が自らの権威付けのために 「政治利用」しているとさえいえるのであって、このことこそがまず批判されなければなりません。


こうした場で、天皇に対して「手紙」を渡すという行為は、天皇の権威を前提としたものであり、そのような天皇制の容認です。さらに、権威を持つ天皇 への「手紙」とは、結局天皇に対する「直訴」であって、民衆の自己決定としてなされるべき政治を、すすんで支配者の側の「温情」に委ねる行為でしょう。原 発事故に行き着いてしまった戦後日本の社会的な歪みも、こうした「お上」に対する負の民衆意識に根を持ってはいないでしょうか。

私たちは、天皇制という制度自体がいらないと主張します。国家の制度としていえば、民主主義の原理と、血統のみに依拠した世襲の非選出勢力の存在は、矛盾 すると考えます。象徴天皇の役割とは、端的に言って、ときどきの日本国家のありかたに「正当性」を付与するものであり、それ以外のことはできないのです。 したがって、「国策」として推進された原子力発電所づくり、原子力エネルギーによる社会発展政策をも正当化してきたことになります。そのような天皇制が、 そもそも非政治的な存在であるはずはありません。


これらの点で、私たちは、象徴天皇制を掲げた日本国憲法を無条件で擁護する立場には立ちませんが、安倍自民党によって「元首天皇」を明記した改憲策動が進 もうとしている今日、改憲反対のための闘いが急務であると考えています。そのためにも、天皇制の強化に力を貸すようなことは、断じてするべきではありません。


一方で私たちは、山本議員の今回の行為が、議員資格を問われるに値する行為だとも考えません。「園遊会」自体が法的な裏付けのないものであり、参加者個人 が天皇個人に私的に手紙を渡すことが、なんら違法行為でないことは明らかです。天皇への請願であれば宛先は内閣だ、などという批判もありますが、請願法の 趣旨からすれば、天皇から内閣にそれを送付すれば済むことです。


山本議員に対する批判の多くが、「政治利用」を云々しながらも、実は旧態依然たる天皇感覚のもとでの「不敬罪」意識に基づいたものであることは、一連の発 言からも明らかです。そうした立場から山本議員を批判し、さらにはなんらかの処分を主張することを、私たちは決して許してはなりません。それ自体が天皇制 タブーの強化であるからです。


天皇制の強化につながるあらゆる動きに反対するという立場を原則として、私たちは声を発し続けていきたいと思います。